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雨のビオトープ



二年ほど前、自宅の庭の山椒の枝を切って花瓶に生けたところ、思いがけずアゲ ハチョウの卵や幼虫がついていたので、枝を補充しながら成虫になるのを待ち、 庭に放ちました。以後、これを何度も繰り返し、あわせて100頭以上を育ててき たように思います。


4月から9月半ば頃にかけて産みつけられたアゲハチョウの卵が成虫になるまでに は、1ヶ月半から2ヶ月ほどの期間がかかります。卵から生まれた幼虫は、餌を得 る枝についたまま4回脱皮をして蛹になりますが、蛹になる直前に餌場から離れ るものが多いので、頃合いを見て花瓶から段ボール箱に移します。山椒の枝では 緑色に、段ボールでは茶色の蛹になるものが多く、擬態の様子を見ることができ ました。蛹はおよそ10日から2週間で羽化します。


自然の環境の中では、アゲハチョウの幼虫にはさまざまな天敵がいて、ごく少数 の個体しか成虫になることができません。しかし、たとえば庭に産みつけられた すべての卵が順調に育ったら、餌にしている山椒の葉があっという間になくなっ てしまい共倒れになるでしょう。自然の摂理によって保たれているバランスとい うものを感じます。


非常に稀なことではありますが、蝶も化石になり、私たちに過去の姿を伝えてく れています。現在の学説では、蝶の祖先は昆虫が出現してから2~3億年が経った ころ、恐竜が生きていた中生代に出現したとされているようです。


庭にくるアゲハチョウは、山椒と柚子の木に卵を産み、その卵から生まれる幼虫 はミカンの仲間の木の葉しか食べません。2億年ほどの長い年月の中で、蝶の仲 間は多様化し、特定の植物の葉を食べる種が進化してきました。これは、食べら れる側の植物の進化との競争の結果であると考えられているようです。ミカンの 仲間の木は、その葉を食べる昆虫などから身を守るために特定の有毒物質を生成 するように進化してきましたが、アゲハチョウの祖先はその有毒物質に耐えられ るよう進化しました。この競争のなかで、他の多くの種はミカンの仲間を食べら れないようになり、アゲハチョウにとってはミカンの仲間に特化する方が有利に なったのです。




"雨のビオトープ" 2018年、キャンバスに油彩、91.0×72.7cm



"雨のビオトープ" 2018年、キャンバスに油彩、91.0×72.7cm
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